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大分地方裁判所 昭和48年(ヨ)159号 決定 1973年9月05日

債権者 波多野義孝

右代理人弁護士 吉田孝美

同 岡村正淳

同 柴田圭一

債務者 柴尾幸一

債務者 有限会社扶桑工務店

右代表者取締役 柳内怜

右債務者両名代理人弁護士 安部万年

主文

債権者が一〇日以内に金一〇〇万円の保証を立てることを条件として、債務者等は別紙目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載の建物につき、三階(高さ七・五五メートル)以上の建築工事をしてはならない。

理由

一、本件に顕われた疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  本件で問題となる建物の建築地は、建築基準法上は商業地に指定され、漸次変貌しつつはあるものの、現在の段階では建築地を中心として数百メートルの周囲の土地建物の一般的状況は閑静な住宅地域を形成していること。

(二)  債権者は昭和二八年以来現住所に住み、現在では木造二階建家屋に家族四人と共に住むかたわら、二階の一部をアトリエとして使用し、商業デザイナーとして活躍しているものである。又、債務者柴尾幸一は昭和三五年九月同人の母柴尾サト名義で右債権者宅のすぐ南に隣接する別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)をその地上の木造瓦葺平家建家屋と共に買受けてこれに引越し、同所において家族と共にすみ、洋服業を営んでいたもので、現在まで債権者、債務者柴尾幸一とも快適な生活を送ってきたこと。

(三)  ところで、昭和四八年五月に至り、債務者柴尾幸一は突如として本件土地上に別紙目録(二)記載の建物と殆んど同じ建物(その後位置床面積に多少の変更がなされ本件建物となった)を建てることになったが、その影響の大きいのに驚いた債権者の強硬な反対に合い、これを断念し、同年六月一日両者間で話合いの結果、四階建の建物を建築せず二階建の建物を建てると言う約定ができたこと。

(四)  ところが、債務者柴尾幸一はその後同年六月下旬に至り右約定を一方的に破棄し、債権者と誠意ある話合をすることもなく、それまで請負契約を結んでいた大分市内の平倉建設株式会社とは解約し、わざわざ別府市にある債務者有限会社扶桑工務店と契約を結び、その工法も周囲に損害を及ぼす如き工法(例えばシートパイルの打込みはオーガ式工法により、その工事は騒音、振動など余りにもひどいので大分市公害課から差し止められた)を用いるなど、近所の迷惑やその及ぼす影響などにも十分考えを致すことのない状態で、別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)工事を進めようとしていること。

(五)  右工事により、本件建物が完成すれば、債権者宅とはその位置関係ほぼ別紙図面のとおり(もっとも、ブロック塀から本件建物までの距離は約一・三メートル)であって、債権者宅には最も日光の要求される秋分から春分の一〇時から一五時までの間において、殆んど二階アトリエ、一階応接間部分にのみ、一二時ごろから一五時ごろまで約三時間程度しか日が当らなくなり、しかもその構造上右部分の室内に日光が差し込むのは一三時ごろから一五時ごろまでの約二時間となってしまう外、債権者宅は高さが約六・三メートルしかないため南側を完全にさえぎられて通風の状況は悪くなり、視界は侵われ、心理的に圧迫感を覚え、デザイナーであると言う特殊性もあって、債権者の生活は極度に脅かされること。

(六)  本件建物は店舗兼共同住宅であり、一階は債務者柴尾幸一の仕事場、駐車場、二階は同人の居宅、並びに貸事務所、三階四階は共同住宅(貸住宅)となっていて、その使用状況からのみみれば債務者柴尾幸一にとって必要不可欠な部分は二階までであると解してもよいこと。

二、以上認定の諸事情を綜合すれば、債権者は債務者等に対し前記約定に従い三階以上の建築工事差止請求権を有するというべきである。

そして、本件建物が債務者等の計画したとおりに完成してしまえば、後日その一部を除去することは著しく困難であることも明らかであるから、保全の必要も認められる。

そこで、債権者に対し一〇日以内に金一〇〇万円の保証を立てることを条件として、債務者等に対し本件建物につき三階(高さ七・五五メートル)以上の建築してはならない旨命ずることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 三宅純一)

<以下省略>

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